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帝京大学宇宙機研究開発センターの取り組み:栃木県から宇宙へ
帝京大学 理工学部総合理工学科/鶴田佳宏 河村政昭

はじめに

昨今の宇宙工学分野における実践的プロジェクトベースの教育・研究機会の拡大は目覚ましいです。

すでに大学生が開発した人工衛星が、実際に宇宙空間でミッションを行い、そのプロジェクト活動自体や、宇宙で取得されるデータを用いた先端研究が日本のみならず世界中で1つのトレンドとなっています。

このような状況下で、帝京大学では、TeikyoSatシリーズの開発を通じた人材育成、先端研究を推進しており、これまでに、TeikyoSat-3 (2014年打上げ)、TeikyoSat-4(2021年打上げ)という2機の衛星プロジェクトを経験しました。


帝京大学 理工学部総合理工学科 鶴田佳宏(左) 河村政昭(右)

宇宙機研究開発センターが目指す『地域×宇宙』

この実践的宇宙プロジェクトを下支えするインフラ構築の一環として、2021年4月より、宇宙機研究開発センターが発足し、分野横断的観点で複数の分野・学科の教員、スタッフによる研究開発活動が進行しています。

宇宙機研究開発センターには、地上で宇宙空間の高真空、低温・高温環境を複合して模擬することのできる「スペースチャンバ―」や、実際に宇宙との電波通信を可能とするΦ2m級のパラボラアンテナ設備を用いた研究教育活動、および、外部ユーザの支援等を実現する体制を構築しています。これらの一連の最先端設備を用いた実学的教育が本学宇宙機研究開発センターの活動の中心&強みの1つであり、北関東・栃木県・宇都宮という立地を活かした様々な宇宙利用、宇宙教育・人材育成を推進しています。

図1に示した写真は、TeikyoSat-4という50kg級、50×50×50cmの立方体形状の人工衛星が完成した時に、開発に参加した学部生・大学院生・研究員・教員で撮影した記念写真です。TeikyoSat-4には、『キイロタマホコリカビ』というモデル生物を宇宙空間で観察するための圧力容器と顕微観察システムを搭載しています。この取り組みは、航空宇宙工学系の研究室だけではなく、バイオサイエンス系や理学系・医学系の学内外の様々な研究室や研究機関と連携し、次世代の宇宙空間における無人自律運用型の実験衛星として発展させていくことを検討しています。また、このTeikyoSatシリーズの要素開発には、栃木県内の多くの企業の皆様にご協力を頂いており、栃木県内の各企業が得意としている技術分野を活かした効果的な開発体制が構築されています。

出典:[1] 帝京大学Webサイト > 人工衛星『TeikyoSat』

図1. TeikyoSat-4 打上げ射場への出発前の記念撮影 (2021年8月) [1]

栃木県内地元企業への貢献:Mono-Nikko開発

特に、近年その発展・拡大が目覚ましい宇宙スタートアップ企業等の先端プロジェクトへの貢献や、栃木県内地元企業への貢献も果たしています。最新のプロジェクト事例として、日光市に拠点を持つ、株式会社大日光・エンジニアリング、帝京大学宇宙機研究開発センターとの産学連携プロジェクトとして、4㎏級のCubeSat(キューブサット)と呼ばれる超小型人工衛星「Mono-Nikko (読み:モノニッコウ)」プロジェクトを推進しており、現在、打上げに向けた開発・地上評価を教員・スタッフ・学生が、地域企業の技術者の方々と一体となって進めています。本プロジェクトでは、栃木県産業技術センターとも協力体制を構築して衛星の検証試験等を実施しています。

この衛星の正式名称は、『バッテリ異常検知システム実証衛星Mono-Nikko』と呼ばれます。株式会社大日光・エンジニアリングが開発した新しい超小型宇宙機用インテリジェント電源ユニットにより、運用中のバッテリの劣化具合や故障をいち早く検知することを目的としており、大学生が開発した新しい宇宙放射線計測センサなども搭載され宇宙で実証していきます。図2に示す衛星外観図のように、宇宙空間で直方体形状の本体(図2上)から4つの展開式太陽電池パネルを4方向に花びらのように展開します(図2下) 。これらの展開パネルの開発や評価試験にも帝京大学所属の学生やスタッフが協力しました。現在、この衛星の開発は佳境を迎えており、打上げ・運用に向けた準備が進行しています。

出典:[2] “バッテリ異常検知システム実証衛星 Mono-Nikko のEM 開発結果報告”, 柴田克哉ほか, 2L05, 第68回宇宙科学技術連合講演会, 日本航空宇宙学会, 2024年11月5日~8日, アクリエひめじ

図2. 3U CubeSat (30×10×10cm 直方体衛星) Mono-Nikko外観
(上:太陽電池パドル展開前、下:太陽電池パドル展開後)

学生の実学的視点を養う実践型宇宙教育プロジェクト

このような実践型のプロジェクトが持つ教育効果は非常に大きく、複数の学部生~大学院生が、幅広い研究開発トピックに貢献し、大学における専門講義の座学以上の経験を積むことのできる貴重な機会となっています。

現在、帝京大学宇宙機研究開発センターでは、このTeikyoSat-4やMono-Nikkoに続く、新しい1~50kg級の超小型級の人工衛星/宇宙機のミッション検討やシステム設計、これらの宇宙機ミッションに利用することを想定した各種コンポーネント開発、ソフトウエア・制御アルゴリズムの研究開発を進めています。TeikyoSat-4の運用やMono-Nikkoの運用にも使用している屋上のパラボラアンテナ設備を用いた既存衛星/探査機から電波観測や、望遠鏡を新規に取り付けた天体観測や低軌道宇宙物体の観測などの新しい取り組みも進行中です。さらに、将来の月面や火星上の超小型級の惑星探査システムによる自律探査ミッションを見据えた、3kg級の手にもてるサイズの自律ローバ (車両型ロボット)の学生プロジェクトもスタートし、屋外における惑星探査を模擬した学生競技会への出場を目指すなど、多角的な宇宙教育・宇宙利用を実施しています。

航空宇宙工学分野だけではなく、機械、材料、電子、情報、バイオサイエンス等の、さまざまな理工学分野の研究室・研究機関とも連携をさらに強化・発展し、来る宇宙時代に向けて、栃木県・宇都宮市から宇宙に挑む若い人材を育てていくことを目指しています。

図3. 宇宙機研究開発センターの研究教育活動の概要

この記事を書いた人

帝京大学 理工学部 総合理工学科
鶴田 佳宏

宇宙システム工学・電気電子電波工学を専門として、これまでに10機を超える超小型級衛星の打上げ・運用に従事。宇宙機研究開発センターの電気電子・通信部門を担当。

帝京大学 理工学部 総合理工学科
河村 政昭

宇宙システム工学・再突入流体力学を専門として、TeikyoSatシリーズの研究開発を主導。宇宙機研究開発センターのセンター長、兼、熱構造部門を担当。